弘志と操〜町屋物語〜1

家族のこと


今年の春先、年老いた両親の為に実家の整理をしに数週間通い詰めていた。

整理だの片付けだのと言うと決まって手が止まってしまう思い出のアルバム

当時の写真を見ながら思い出話が始まる父母。

殆どが出逢いから結婚まで、12年間の大恋愛ストーリー。

何度も聞かされているけど、毎回なぜか楽しく聞ける不思議。

きっと自分のルーツがそこにあるからなのかもしれない。



出逢い

それは今から約70年前、1950年代のこと。

場所は東京の下町、荒川区町屋。

街では一番と言われるぐらい、大きな工場でひょんなことから

住み込みで働くことになった弘志(父)。

その大きな工場の経営者の世間知らずな箱入り娘が操(母)だ。



「スカした男が入ってきた」と弘志のことは家族で話題になっていた。

操は7人兄弟の長女。

どうやらその当時、すぐ下の妹と逆さ言葉遊びが流行っていたらしく

例えば「小さい子」だったら「こいさいち」と言ったような逆さまに言う遊びだった。

しかもそれをスラスラと普通の会話のように話すのだ。

ある日、妹と学校の帰り道、家の前まで来ると弘志が立っていた。

「姉ちゃん あの人だよ、スカした奴って。」と妹。

”本当だ。なにあれ、格好つけちゃってさ”

操が抱いた弘志への第一印象はそんな感じだった。

家に入るには弘志の真横を通らなければならない。

何故か操は、とてもスカした弘志が気に入らなかったらしく

通りすがりに 「イヤな奴!!!」とわざと聞こえるように言い放ったのだ。

家に入ってから妹が焦った顔で操に言った。

「姉ちゃん!!今の逆さ言葉になってなかったよつつつ!!」

そう、操は逆さ言葉で言い放ったつもりだったのだ


「イヤな奴」と何の身の覚えもないのに、いきなりそう言われた弘志。

”何なんだあいつ?? 変な奴だな

これが弘志が抱いた操に対しての第一印象だ。


弘志18歳、操13歳、”イヤな奴と変な奴”

ここから二人の70年余りに渡る長い長い歴史が始まる事になる。




多分2に続く




コメント